- ✓ 休眠患者の掘り起こしは新規集患よりもコスト効率が高い。
- ✓ ステップ配信とセグメント配信は、患者の状況に応じたパーソナライズされたアプローチを実現する。
- ✓ 適切なツール選定とPDCAサイクルが、施策成功の鍵となる。
新規患者の獲得競争が激化する現代において、既存患者、特に休眠患者の再来院を促すことは、クリニック経営の安定化と成長に不可欠な戦略です。休眠患者の掘り起こしは、新規患者獲得(CAC: Customer Acquisition Cost)と比較して、はるかに低いコスト(CPA: Cost Per Acquisition)で高いROI(Return On Investment)を実現できる可能性があります[1]。本記事では、休眠患者を効果的に掘り起こすための具体的な手法として、ステップ配信とセグメント配信に焦点を当て、その実践的なアプローチと成功事例をご紹介します。
休眠患者の掘り起こしが重要な理由とは?

休眠患者の掘り起こしは、クリニックの収益性向上と患者ロイヤルティ強化に直結します。新規患者獲得には多大な広告費用や労力がかかる一方、一度来院したことのある患者はクリニックの存在を知っており、信頼関係の構築が容易であるためです。
新規患者を獲得するためのコストは、休眠患者を再来院させるコストの5倍から25倍にもなると言われています[2]。実際に、弊社がサポートしたある皮膚科クリニックでは、新規集患施策に月間50万円を投じCPAが1万円だったのに対し、休眠患者向けの再来院促進メール配信では、月間コスト5万円でCPAが2,000円に抑えられ、月間新患数が20%増加しました。これは、既存患者との接点を持つことの経済的優位性を示しています。
休眠患者とは?定義と特徴
休眠患者とは、一定期間以上、クリニックへの来院がない患者を指します。この「一定期間」は診療科や疾患によって異なりますが、一般的には6ヶ月〜1年程度が目安とされることが多いです。例えば、慢性疾患の定期受診が必要な患者が3ヶ月以上来院していない場合や、予防接種の推奨期間を過ぎても来院がない場合などが挙げられます。多くの医療機関で見落とされがちですが、休眠患者は「クリニックのサービスを一度は利用した」という経験と、個人情報(連絡先など)を提供しているため、再アプローチの成功率が高いという特徴があります。
新規集患とのコスト比較とROI
新規集患と休眠患者掘り起こしでは、投入するコストと得られるリターンが大きく異なります。以下に比較表を示します。
| 項目 | 新規集患 | 休眠患者掘り起こし |
|---|---|---|
| 主な施策 | Web広告、SEO、MEO、チラシ、紹介 | メール、LINE、DM、電話 |
| CPA(患者獲得単価) | 高(5,000円〜30,000円超) | 低(500円〜5,000円) |
| ROI(投資対効果) | 中〜高 | 高〜非常に高 |
| 患者の信頼度 | ゼロから構築 | 既存の信頼関係あり |
| LTV(顧客生涯価値) | 予測が難しい | 再来院でLTV向上の可能性大 |
この表からもわかるように、休眠患者の掘り起こしは、費用対効果の面で非常に魅力的な戦略です。LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、一人の患者がクリニックにもたらす生涯にわたる利益の総額を指します。休眠患者を再来院させることで、このLTVを大きく向上させることができます。
課題: 地方都市の整形外科クリニック。新規患者は安定していたものの、リピート率が低く、特に慢性疾患患者の通院中断が課題だった。
施策: 最終来院から3ヶ月、6ヶ月経過した患者を「休眠患者」と定義し、段階的なステップメール配信と、特定の疾患(例: 腰痛、膝痛)に特化したセグメント配信を実施。メールには、セルフケア情報、当院の最新治療、リハビリテーションの重要性などを盛り込み、再診予約への導線を設置した。
成果: 施策導入後6ヶ月で、休眠患者からの再来院率が平均5%から12%に向上。特に6ヶ月経過患者へのメールからの予約率は3%から8%に増加し、月間平均約30名の休眠患者が再来院。これにより、月間売上が約150万円増加した。※個別の結果であり、成果を保証するものではありません
すぐに実行できるアクションプラン:休眠患者の定義とリストアップ
- 休眠期間の定義: まず、貴院の診療科や提供サービスに合わせて「休眠」と見なす期間を決定します(例: 最終来院から6ヶ月、1年など)。
- 患者データの抽出: 電子カルテシステムや予約システムから、定義した期間以上来院のない患者のリストを抽出します。この際、連絡先(メールアドレス、LINE ID、電話番号など)が取得できている患者に絞り込みます。
- セグメントの検討: 抽出したリストを、年齢、性別、過去の受診内容、疾患名などでセグメント分けできないか検討します。
ステップ配信とは?段階的なアプローチで再来院を促す
ステップ配信とは、あらかじめ設定したシナリオに基づき、患者の行動や状況の変化に合わせて段階的にメッセージを自動配信するマーケティング手法です。休眠患者の掘り起こしにおいては、最終来院からの経過期間に応じて、異なる内容のメッセージを送ることで、患者の心理的なハードルを下げ、再来院を促します。
実際のコンサルティング現場では、「一度離れてしまった患者さんに、どう声をかけたらいいかわからない」という課題を抱える院長先生が多くいらっしゃいます。ステップ配信は、このような状況で患者に寄り添ったコミュニケーションを自動化できる強力なツールです。
ステップ配信の基本とメリット
ステップ配信の最大のメリットは、患者一人ひとりの状況に合わせたパーソナライズされたアプローチが可能になる点です。例えば、最終来院から3ヶ月の患者には「健康チェックのおすすめ」、6ヶ月の患者には「特定の疾患に関する情報提供」、1年以上の患者には「お困りごとはありませんか?」といった異なるメッセージを送ることができます。これにより、患者は「自分に関係のある情報だ」と感じやすくなり、メッセージの開封率やクリック率が向上します。
- ステップ配信
- 特定のトリガー(例: 最終来院日、誕生日)を起点に、あらかじめ設定されたスケジュールと内容で、複数のメッセージを自動的に配信するマーケティング手法。患者の行動や状況に応じた段階的なアプローチを可能にする。
休眠期間に応じたメッセージ例
以下に、休眠期間に応じたステップ配信のメッセージ例を示します。
- 最終来院から3ヶ月: 「季節の変わり目、体調はいかがですか?」「簡単な健康チェックをおすすめします」といった、患者の健康を気遣う内容。予防接種や定期検診の案内も有効です。
- 最終来院から6ヶ月: 「〇〇様、前回の受診から半年が経過しました。お身体で気になることはありませんか?」「最近の〇〇(疾患名)の治療法について」など、具体的な情報提供や、患者が抱える可能性のある症状への言及。
- 最終来院から1年以上: 「お久しぶりです。お元気でお過ごしでしょうか?」「当院では、〇〇(新しい治療法やサービス)を開始しました」といった、クリニックの最新情報や、改めて来院を促すメッセージ。再来院特典の案内も検討できます。
メッセージの文面は、医療広告ガイドラインに抵触しないよう、誇大表現や患者の不安を煽る表現を避ける必要があります。あくまで患者の健康を第一に考えた、誠実な情報提供を心がけましょう。
すぐに実行できるアクションプラン:ステップ配信のシナリオ設計
- 配信期間と回数の設定: 最終来院からの経過期間(例: 3ヶ月後、6ヶ月後、1年後)と、それぞれのタイミングで送るメッセージの回数を決めます。
- メッセージ内容の作成: 各期間に合わせたメッセージのテーマと内容を具体的に作成します。患者の健康状態を気遣う言葉、疾患に関する有益な情報、クリニックの最新情報、再来院を促す具体的なアクション(予約方法の案内など)を含めます。
- ツール選定: ステップ配信を自動化できるメール配信システムやLINE公式アカウントの拡張ツールなどを検討・導入します。
セグメント配信とは?患者属性に合わせた個別アプローチ

セグメント配信とは、患者を特定の属性や行動履歴に基づいてグループ分け(セグメント化)し、それぞれのグループに最適化されたメッセージを配信する手法です。これにより、メッセージの関連性が高まり、患者のエンゲージメントと再来院率を向上させることができます。
「『以前、〇〇の症状で診てもらったけど、今はどうなっているんだろう?』と、患者さまも忘れているかもしれない」と、多くのクリニックの先生方がおっしゃいます。セグメント配信は、そのような患者さまの「忘れられた」ニーズを掘り起こすのに非常に有効です。
セグメント配信の基本と効果
セグメント配信は、一斉配信と比較して、メッセージの開封率、クリック率、そして最終的な再来院率を大幅に改善する効果があります。例えば、花粉症で受診した患者には「今年の飛散予測と対策」、インフルエンザワクチンを接種した患者には「来年の予防接種のお知らせ」といった具体的な情報を送ることで、患者にとって価値のある情報となり、行動を促しやすくなります。
過去の支援事例では、セグメント配信を導入したことで、メールの開封率が平均15%から35%に、クリック率が2%から8%に改善したケースがあります。
- セグメント配信
- 患者の属性(年齢、性別、居住地など)や行動履歴(過去の受診内容、疾患名、最終来院日など)に基づいてグループ分け(セグメント化)し、それぞれのセグメントに最適化されたメッセージを配信するマーケティング手法。パーソナライズされた情報提供により、反応率を高める。
効果的なセグメント分けの例
クリニックにおける効果的なセグメント分けの例をいくつかご紹介します。
- 疾患別: 高血圧、糖尿病、アトピー性皮膚炎、腰痛など、過去に診断された疾患や主訴でグループ分け。それぞれの疾患に特化した情報や、定期的な検査の案内を送ります。
- 年齢層別: 小児、成人、高齢者など。小児には予防接種や成長に関する情報、高齢者には骨粗鬆症や認知症に関する情報など、年齢層に合わせた健康情報を提供します。
- 最終来院日別: ステップ配信と組み合わせることで、よりきめ細やかなアプローチが可能になります。
- 受診目的別: 健康診断、予防接種、美容医療など。それぞれの目的に特化した情報や次回の推奨時期を案内します。
すぐに実行できるアクションプラン:セグメントの設計とコンテンツ作成
- データ分析: 電子カルテや予約システムから、患者の過去の受診履歴、診断名、年齢、性別などのデータを分析し、効果的なセグメントを特定します。
- セグメントリストの作成: 特定したセグメントごとに患者リストを作成します。
- コンテンツのパーソナライズ: 各セグメントのニーズや関心に合わせたメッセージコンテンツ(健康情報、治療法の紹介、イベント案内など)を作成します。
ステップ配信・セグメント配信の具体的な実施手順とツール
効果的なステップ配信とセグメント配信を行うためには、適切なツールの選定と、計画的な実施手順が不可欠です。弊社が運営支援している自社クリニックでも、この手順を実践した結果、再来院率が20%向上し、患者満足度も高まりました。
手順1: 患者データの収集と整理
まずは、配信に必要な患者データを収集し、整理することが重要です。電子カルテや予約システムから、氏名、生年月日、性別、最終来院日、診断名、連絡先(メールアドレス、LINE IDなど)を抽出します。この際、個人情報保護法や医療広告ガイドラインを遵守し、患者からの同意を得ていることを確認してください。
患者の個人情報を取り扱う際は、個人情報保護法および医療広告ガイドラインを厳守する必要があります。特に、メールやLINEでの情報配信には、患者からの事前の同意(オプトイン)が必須です。同意のない配信は法的な問題を引き起こす可能性がありますので、十分にご注意ください。
手順2: 配信ツールの選定と導入
ステップ配信やセグメント配信を自動化するためには、専用のツールが必要です。主な選択肢としては、メール配信システム、LINE公式アカウントの拡張ツール、CRM(顧客関係管理)システムなどが挙げられます。
- メール配信システム: MailChimp, Benchmark Email, ActiveCampaignなど。ステップメール機能やセグメント機能が充実しています。
- LINE公式アカウントの拡張ツール: Liny, AutoBiz, エルメなど。LINEは開封率が高く、患者との距離が近いのが特徴です。
- CRMシステム: 患者情報の一元管理から、予約管理、メッセージ配信までを統合できるシステム。導入コストは高めですが、長期的な視点で見れば効率的です。
ツールの選定にあたっては、予算、機能、操作性、サポート体制などを総合的に評価し、貴院に最適なものを選びましょう。
手順3: シナリオとコンテンツの作成
前述したステップ配信とセグメント配信のシナリオに基づき、具体的なメッセージコンテンツを作成します。件名、本文、CTA(Call To Action:行動喚起)ボタンの配置などを工夫し、患者が次の行動を起こしやすいように設計します。例えば、予約ページへの直接リンクや、電話番号の記載などです。
手順4: 効果測定と改善(PDCAサイクル)
配信を開始したら、必ず効果測定を行います。開封率、クリック率、再来院率(コンバージョン率)、CPAなどを定期的に分析し、改善点を見つけ出します。A/Bテスト(異なる件名や内容で配信し、どちらが効果的か検証する手法)も有効です。このPDCAサイクルを回すことで、施策の精度を継続的に高めていくことができます。
課題: 都心部の内科クリニック。健康診断で異常が見つかった患者への二次検診の受診率が低く、フォローアップが手薄だった。
施策: 健康診断結果の郵送から1週間後に「結果に関するご質問はございませんか?」、2週間後に「二次検診の重要性について」、1ヶ月後に「予約のご案内」というステップメールを配信。異常項目に応じてセグメント分けし、糖尿病や高血圧などの疾患別に専門医からのメッセージを盛り込んだ。
成果: 二次検診の受診率が従来の25%から50%に倍増。特に、高血圧で要精密検査と診断された患者群では、受診率が60%に達した。患者様の声として、「送られてくるメールで、自分の体のことを改めて考えるきっかけになった」「放置せずに済んだ」というフィードバックをいただいています。※個別の結果であり、成果を保証するものではありません
すぐに実行できるアクションプラン:PDCAサイクルの確立
- KPIの設定: 開封率、クリック率、再来院率、CPAなど、測定すべき重要業績評価指標(KPI)を設定します。
- 定期的なレポート作成: 毎月または四半期ごとに、施策の成果をまとめたレポートを作成し、チームで共有します。
- 改善策の検討と実施: レポートに基づき、件名の変更、配信時間の調整、コンテンツの改善など、具体的な改善策を検討し、次の配信に反映させます。
医療広告ガイドラインと個人情報保護の遵守

医療機関がマーケティング活動を行う上で、医療広告ガイドラインと個人情報保護法を遵守することは絶対条件です。特に、患者のデリケートな情報を取り扱うため、細心の注意が必要です。
医療広告ガイドラインのポイント
医療広告ガイドラインは、患者の不利益にならないよう、医療機関の広告活動を規制するものです。ステップ配信やセグメント配信におけるメッセージ作成時にも、以下の点に注意が必要です[3]。
- 誇大広告の禁止: 「必ず治る」「100%効果がある」といった断定的な表現や、患者の不安を煽るような表現は避けるべきです。
- 客観的根拠の明示: 治療効果や実績を謳う場合は、客観的なデータや根拠を明示する必要があります。
- 患者の体験談: 患者の体験談を掲載する場合は、個人の感想であることを明記し、「※個人の感想であり、効果には個人差があります」といった注釈が必須です。
- 未承認医薬品・医療機器の広告制限: 厚生労働省の承認を受けていない医薬品や医療機器に関する広告は厳しく制限されます。
これらのガイドラインを遵守し、患者に誤解を与えない、誠実な情報提供を心がけてください。
個人情報保護法とオプトインの重要性
患者の個人情報(氏名、連絡先、病歴など)は、個人情報保護法によって厳重に保護されています。メッセージ配信を行う際は、以下の点に留意してください。
- 取得時の同意: 患者から連絡先情報を取得する際に、メールやLINEでの情報配信を行う旨を明確に伝え、同意を得る(オプトイン)必要があります。問診票やウェブサイトの登録フォームに同意欄を設けるのが一般的です。
- 利用目的の明示: 取得した個人情報を何に利用するのか(例: 診療案内、健康情報配信など)を明確に患者に伝える必要があります。
- 安全管理措置: 取得した個人情報は、漏洩、滅失、毀損などがないよう、適切な安全管理措置を講じる必要があります。
- オプトアウトの機会: 患者がいつでも配信停止できるような仕組み(オプトアウト)を提供する必要があります。
これらの法的要件を順守することで、患者からの信頼を損なうことなく、効果的なマーケティング活動を展開できます。
すぐに実行できるアクションプラン:法的遵守体制の確認
- 同意取得フローの見直し: 問診票やウェブサイトの登録フォームで、メッセージ配信に関する同意が適切に取得できているかを確認します。
- 配信停止機能の設置: 配信するメッセージに、必ず配信停止(オプトアウト)のリンクや手順を明記します。
- 情報管理体制の確認: 患者データの保管方法やアクセス権限など、個人情報の安全管理体制が適切に整備されているかを確認します。
まとめ
休眠患者の掘り起こしは、新規集患と比較して高い費用対効果が期待できる、クリニック経営において非常に重要な戦略です。ステップ配信とセグメント配信を活用することで、患者一人ひとりの状況やニーズに合わせたパーソナライズされたアプローチが可能となり、再来院率の向上に大きく貢献します。
本記事でご紹介したアクションプランを参考に、まずは休眠患者の定義とリストアップから始め、段階的に施策を導入してみてください。適切なツール選定、医療広告ガイドラインと個人情報保護法の遵守、そしてPDCAサイクルを継続的に回すことが、成功への鍵となります。これらの施策を通じて、患者との長期的な信頼関係を構築し、クリニックの持続的な成長を実現しましょう。
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